日本昔話 大工とネコ
大工と猫
序章:妙な出会い
昔々、ある村に腕の良い大工が住んでいた。名を弥吉と言い、木を削り、組み上げ、見事な家を建てることで評判だった。だが、弥吉には一つだけ欠点があった。彼は気が短く、少しでも仕事の邪魔が入るとすぐに怒鳴り散らしてしまうのだ。
ある日、弥吉が仕事場で一心不乱に木を削っていると、どこからともなく一匹の猫がやってきた。毛並みは白と黒のまだら模様で、どこか気品が漂っている。猫は弥吉の道具箱の上に腰を下ろし、大きな目でじっと彼を見つめた。
「おい、どけ! 仕事の邪魔だ!」
弥吉が怒鳴ると、猫は一言も言わずスッと立ち去った。しかし翌日も、そのまた翌日も、猫は同じように現れては弥吉を見つめる。
最初は苛立っていた弥吉も、次第に猫の不思議な佇まいに興味を覚え始めた。「なんでこんなに毎日来るんだ?」と問いかけても、猫はただ静かに尻尾を揺らすだけだ。
奇妙な助力
ある晩、弥吉は木材の加工に苦戦していた。どれだけ寸法を合わせても、どうしても柱が歪んでしまうのだ。疲れ果てて頭を抱えていると、ふいにあの猫が現れた。
猫は弥吉の傍らに座り、まるで「こうすればいい」とでも言いたげに木材を前足で軽く叩いた。半信半疑で猫が示した場所を削ると、驚いたことに柱は見事にまっすぐになった。
「なんだお前、ただの猫じゃないのか?」
弥吉が呟くと、猫は喉をゴロゴロ鳴らし、満足そうに尻尾を揺らした。
それからというもの、猫は毎晩弥吉の元を訪れ、時には削る場所を示し、時には図面に載っていないアイデアを思いつくように身振りで伝えた。弥吉は猫の助けを借りながら、今まで以上に立派な建物を作り上げるようになった。
猫の秘密
しかし、ある日村の古老がふと弥吉の作業場を訪れ、猫を見て驚いた様子でこう言った。
「その猫はただの猫じゃない。この村に古くから伝わる、工匠の魂を宿した守り神じゃ。」
弥吉は最初こそ笑い飛ばしたが、猫があまりにも賢いことを思い出し、次第に信じるようになった。そしてある晩、猫が弥吉の仕事を見届けたあと、そっと弥吉の前で一礼し、姿を消した。
「ありがとうよ、お前のおかげで本当に腕が上がった。」
弥吉は猫の去ったあと、彼の道具箱の上に白黒の毛が一本だけ残されているのを見つけた。それを大切に取っておいた弥吉は、その後も村一番の大工として名を馳せ、猫との出会いを忘れることはなかったという。
大工と猫の奇妙な絆は、村人たちの間で長く語り継がれた。誰もが「弥吉の技術は猫に教わったものだ」と信じ、猫が村の守り神であるという噂は広まった。弥吉が家を建てるたび、その家にはどこか猫の形をした飾りが施されていたそうな。
ギャグ編
大工と猫 ~笑いの棟梁~
昔々、ある村に弥吉という大工がいた。腕は一流だが、口は三流。文句を言わせたら村一番で、「この釘が曲がるなんて俺の腕に問題があるはずないだろうが! 釘のせいだ!」と、道具にまで八つ当たりする始末。
そんなある日、弥吉が木を削っていると、どこからともなく一匹の猫が現れた。毛は白と黒のまだら模様、どこか貴族っぽい雰囲気を醸している。猫は弥吉の道具箱の上にどっかり腰を下ろした。
「おいおい、そこは俺の大事な道具箱だ! そんなところで昼寝するな!」
弥吉が怒鳴ると、猫は大あくびをして、
「にゃー」とだけ答えた。
「なんだその返事は! 俺の説教を聞く気がゼロじゃないか!」
だが猫は耳をひくつかせただけで、そのまま座り続けた。弥吉がホウキを持って追い払おうとすると、猫は突然、弥吉をじっと見つめた。その目には「お前の腕、そこまで良くないだろ?」と言いたげな侮辱が宿っている。
「お、お前、今心の中で俺をバカにしたな!?」
猫は再び「にゃー」とだけ答えた。
猫のアドバイス
数日後の夜、弥吉が木材の加工に手こずっていた。どんなに削っても、柱が微妙に歪む。
「俺の腕にかかればこんなの簡単なはずなんだがなぁ…あれ、俺の腕、意外と普通?」
そこへ例の猫が再び現れた。弥吉の横に座り、前足で木材をチョンと叩くと、まるで「ここが問題だ」とでも言うような仕草を見せた。
「はぁ? 猫の分際で大工にアドバイスだと? …まぁ試してやるか。」
渋々言われた通りに削ると、なんと柱は見事にまっすぐに!
「なんだお前、ただの猫じゃなかったのか!」
猫はふわりと尻尾を揺らし、「ふっ、見た目で判断するな」と言いたげに弥吉を見上げた。
それからというもの、猫は夜な夜なやってきては木材を叩いたり、図面に乗ってゴロゴロしたりと謎の行動を繰り返した。特に役に立っているようには見えないが、弥吉がその通りに作業すると、いつも見事な出来栄えに仕上がる。
秘密と大暴露
ある日、村の古老が弥吉の作業場を訪れると、例の猫を見て目を丸くした。
「弥吉、この猫はただの猫じゃないぞ。この村に伝わる、大工の守り神だ!」
「え? 守り神? いやいや、ただのずうずうしい猫だろ。俺の道具箱に毛だらけの跡を残すんだぞ?」
だが古老は真剣な顔で続けた。
「いや、本当だ。この猫が助けるのは選ばれた者だけだ。それにしても、お前が選ばれるとはな…どういう基準なんだ?」
古老の疑問には答えず、猫は偉そうにあくびをした。
その夜、弥吉は猫に尋ねた。
「おい、守り神って本当か? 俺を選んだ理由があるなら教えろよ。」
猫はゆっくりと首を傾けて、ぽつりと呟いた。
「…飯くれると思った。」
「なんだと!?」
守り神という威厳が完全に崩れた瞬間だった。
猫の意地
その後、猫は弥吉の家に居着き、仕事のたびに「ここを削れ」「そこを止めろ」といちいち指示を出した。弥吉は猫を「棟梁」と呼び始め、村の人々も「弥吉とその猫」のコンビを面白がった。
ある日、猫は満足そうに弥吉の仕事を見届けると、一言こう言い残した。
「お前も腕を上げたな。…でも、俺の飯、豪華にならないか?」
こうして弥吉は、猫の胃袋を満たすためにさらに精進し、村一番どころか町一番の大工となった。猫はといえば、弥吉が作ったふかふかの特製猫ベッドで毎日昼寝を楽しんでいたという。
そして弥吉の家の屋根には、猫の形をした飾りが誇らしげに輝いていた。
「この猫、俺の師匠だからな!」
弥吉のその言葉に、猫はゴロゴロと喉を鳴らしながらこう呟いた。
「…もっと豪華な飯、頼むぞ。」
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