日本昔話 大晦日の麦飯




村はずれの小さな家に、お爺さんとお婆さんが二人きりで暮らしていました。二人は貧しくても仲良く暮らしていましたが、大晦日ともなると周りの家々から漂うごちそうの匂いが、なんとも言えず切ない気持ちにさせるのでした。


「お爺さん、今年も麦飯だけじゃなあ……せめてお餅の一つでもあればよかったねえ」

お婆さんは、薄暗い囲炉裏のそばでため息をつきました。


「まあまあ、お婆さん。麦飯だって立派なご馳走だぞ。それに、腹が減ってなきゃ、あの世にも行けんというしな」

お爺さんは笑って言いましたが、その笑顔の奥には寂しさが滲んでいました。


その夜、二人がささやかに麦飯を食べ終えた頃、外から不思議な音が聞こえてきました。


「トントン……トントン……」


「こんな夜更けに誰じゃろう?」

お爺さんが戸を開けると、そこには見たこともない立派な僧侶が立っていました。坊主頭に金の装飾が施された袈裟(けさ)。見るからに普通の人ではなさそうです。


「失礼します。この寒い夜、少しの間お邪魔してもよろしいでしょうか?」


お婆さんは驚きつつもすぐに火を焚き直し、暖かいお茶を差し出しました。


「こんな粗末な家ですが、どうぞお入りください」


僧侶は静かに囲炉裏のそばに腰を下ろし、微笑んで言いました。

「お心遣い感謝します。実は少々、腹が減っております。何か食べるものを分けていただけないでしょうか?」


お婆さんは一瞬困った顔をしました。大晦日とはいえ、家には麦飯しかありません。けれども、お爺さんはすぐに言いました。

「麦飯でよければ、どうぞ召し上がってください」


お婆さんは急いで残りの麦飯を僧侶に差し出しました。すると僧侶は、箸を手に取るなりこう言いました。

「ありがとうございます。この麦飯、ただの麦飯ではないでしょうね」


二人はきょとんとしました。


「ただの麦飯……ですけど」

「いえ、そうではない。この麦飯にはお二人の真心が詰まっています。その真心が、この世ならぬ美味を生むのです」


僧侶は嬉しそうに麦飯を一口食べると、目を閉じてゆっくり味わいました。その姿を見ているうちに、お爺さんとお婆さんの心も不思議と温かくなっていきました。


食べ終えた僧侶は静かに立ち上がり、こう言いました。

「この恩は必ずお返しします。どうか末永くお幸せに」


そう言って去って行った僧侶の後ろ姿を見送りながら、二人は首を傾げました。


翌朝、大晦日の静けさを破るようにして、外から村人たちの驚きの声が聞こえてきました。


「おい、お爺さんの家の周りに大判小判が埋まってるぞ!」


二人が外に出ると、そこには一面に黄金の光が広がっていました。


「お爺さん、これは夢じゃろうか?」

「いやいや、お婆さん、これは昨日のあの僧侶の仕業に違いない。あの方、ただの人ではなかったんじゃ」


こうして二人は、村一番の裕福者となり、今まで以上に心穏やかに暮らしたのでした。


それ以来、大晦日に麦飯を食べることが村の習慣となり、人々は真心を込めて貧しい者にも施しをするようになったといいます。


ギャグ編


村はずれのボロ家に、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。二人はとても仲が良くて、いつも他愛もない話で笑っていましたが、貧乏だけはどうにもなりませんでした。


大晦日の夜、隣の家からすき焼きの匂いが漂ってきます。牛肉、ネギ、割り下の香りが鼻孔を突き刺し、思わず二人の胃袋が主張しました。


「グゥゥゥ……」


「お爺さん、隣の家が牛でも焼いてるんじゃろうかねえ」

「いや、あれは牛じゃないぞ。牛様じゃ。あの匂いは人をダメにする」


二人は机を囲んでしょぼい麦飯を見つめました。麦飯は麦飯でも、冷え切っていて、見るからに食欲が失せます。


「今年も麦飯か……。お婆さん、来世ではせめてうどん屋に生まれたいのう」

「そうねえ。うどん屋なら毎日スープ飲み放題じゃ」


そんな会話をしながら二人が麦飯を頬張っていると、突然、外から「トントントン」と戸を叩く音がしました。


「誰じゃこんな夜更けに! わしらに貸した金でも返しに来たのか?」

「そんな心当たりないでしょ!」


戸を開けると、そこには煌びやかな袈裟をまとった僧侶が立っていました。

「こんばんは。この寒い夜、少々お邪魔してもよろしいでしょうか?」


お婆さんはすかさず言いました。

「どうぞどうぞ! ただし麦飯しかありませんけどね」


僧侶はにっこり微笑みながら答えました。

「ありがとうございます。それで十分です。私は修行中ですから、贅沢は必要ありません」


お爺さんは笑いながら言いました。

「修行中なら、一緒に腹を空かせる修行でもするかのう。うちは今、まさに『限界突破』中じゃ!」


囲炉裏を囲んで僧侶が麦飯を食べ始めると、彼は箸を止め、目を輝かせました。

「これは……ただの麦飯ではありませんね?」


お婆さんは首をかしげました。

「ただの麦飯ですけど?」


僧侶は真剣な顔で言いました。

「いや、この麦飯には深い真心が込められています。まるで……カレーの隠し味みたいに」


お爺さんが突っ込みました。

「カレーの隠し味って何じゃ! わしらは何も隠してないぞ!」


僧侶は麦飯を完食し、満足そうに立ち上がりました。

「ありがとうございます。この恩は必ずお返しします。どうか良いお年を!」


そう言って去って行った僧侶の背中を見送りながら、お爺さんは呟きました。

「さては、あれが今年最後の珍客じゃったな」


翌朝、外から村人たちの騒ぎ声が聞こえてきました。


「おい、あそこの家の庭に小判が埋まっとるぞ!」


二人が外に出ると、庭には金ぴかの小判がぎっしり。お婆さんは思わず言いました。

「お爺さん、これは夢かいの?」

「夢じゃない! むしろ、夢の続きじゃ! さあ、これで隣の家を越えるすき焼きを作ろうじゃないか!」


こうして二人は村一番の豪邸に住むことになり、毎年大晦日には「麦飯感謝祭」を開くようになりました。隣の家には毎年すき焼きの匂いを送り返すことを忘れずに。


村人たちはこの話を聞くたびに笑いながら言います。

「麦飯がここまで出世するとはのう!」



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